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日本労働ペンクラブ創設45周年記念講演会を開催! ―諏訪康雄・法政大名誉教授の講演を熟講

2026/11/02

 

26年10月8日(木)、東京・神田錦町のちよだプラットフォーム・スクエアにおいて、日本労働ペンクラブ「創設45周年記念講演会」が開催された(参加者は、会員が36人、労働組合関係者等非会員が10人、講師を含め計47人)。講師は法政大学名誉教諭の諏訪康雄氏及び人事ジャーナリストで当クラブの事務局長である溝上憲文氏。テーマは「労働時間法制等に関する今後の方向性」(諏訪康雄氏)で、溝上憲文氏はメイン講演の前段として、労働時間を巡る動き等を報告した。

労働時間に関しては、労働条件の主要な柱として、これまでも長く労使間で闘争が行われてきた。我が国で、労働時間規制が施行されたのは1916年の工場法によってであり、それを基礎として、戦後労働基準法を中心とする労働者保護立法が施行されてきたところである。

今回、労働時間という、古くて新しい問題を記念講演のテーマとしたのは、昨年の高市総理が就任時「働いて、働いて......」を5回繰り返し、ワークライフバランスに否定的な見方を示し、労働時間法制の転機を感じたとことが直接の要因となっている。その後、労働基準監督署の時間外労働につての監督を緩める方向での転換が行われ、裁量労働の拡大等、労働者の働かせ方について、制約を緩める動きも見られるなど、労働時間法制の動きには目を離せない状況にあるといえる。

こうした状況の中、改めて労働時間法制について考えるため、45周年の記念講演のテーマに選んだものである。

労働時間法制等に関する今後の方向性(要旨)

法政大学名誉教授 諏訪康雄氏

1 労働時間規制の流れ

産業革命を経た19世紀後半、労働時間規制が行われるようになり、1919年に1日8時間労働を定めたILO第1号条約が制定され、更に生活時間の保障として、有給休暇について定めた132号条約が制定された。

労働時間規制は、19世紀~20世紀において、まず過重労働から「身体」を守るものとして、20世紀にはより積極的に健康を、次に生活を守るものとして、更には今世紀にかけては「人生」を設計するためのものとして、すなわち「キャリア」を自律的に構築する「時間的保護」措置となるべきものとして進んできているといえる。

2 キャリアの自律、キャリア権

日本では、2001年に雇用対策法が改正されて労働政策総合推進法となり、その3条に基本理念として「適切な職業生活の設計等により職業生活の全期間を通じてその職業の安定が図られるように配慮されるものとする」と、自立型への配慮が規定された。また2015年には職業能力開発促進法が改正され、その3条の3において、労働者は「職業生活設計を行い、その職業生活設計に即して自発的な職業能力の開発及び向上に努める」ことが規定され、「配慮」と「努める」が労働のキーワードとなった。また、2015年に制定施行された「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律」の8条(教育の推進)においては、国は、職業生活設計「キャリアデザイン」の重要性について理解を深めるとともに、労働者は、主体的に職業生活設計を行い、自らの選択に応じ充実した職業生涯(キャリア)を営むことができるよう、職業生活設計についての教育の推進その他必要な施策を講じることとしている。

安倍内閣において進められた働き方改革においては、処遇の改善(賃金等)、制約の克服(時間・場所など)に加え、キャリアの構築が掲げられている。また、2023年5月に定められた「三位一体の労働市場改革指針」では、キャリアは「一人ひとりが自らのキャリアを選択する」時代となってきたとして、キャリアの自律をうたっている。

更に、経営サイドからも、2006年以降、主体的なキャリア形成の必要性、自律型人材の必要性をうたい、企業は労働者が主体的に学び、中長期的なキャリア展望を持てるよう支援することが求められること、一方、連合は2019年に「連合ビジョン」で「キャリア権」に言及し、キャリア権を雇用基本法(仮称)に規定することを求めている。

このように、各方面から「キャリアの自律」が主張され、従来の集団主義的な働き方から個人主義的な働き方に移れるかが今後の課題となっている。労働時間を考える際には、量的な労働時間だけを議論してはいけない。

3 国際的な動向

労働時間規制を国際的に見ると、柔軟な労働時間法制が進み、1982年にはオランダにおいて、組合側は賃金の抑制、経営側は労働時間の抑制、国は社会保障の充実という三方一両損のいわゆるオランダ方式が展開された。現在では生成AIが急速に普及しており、これは産業革命以来の変化といえる。

年間の労働時間は、アメリカが1800時間、日本が1598時間、ドイツが1332時間と、日本は中間的な位置にある。国際的にみると、米国、カナダ、オーストラリア、英国などの英米系諸国は、欧州大陸諸国より長めの傾向が見られる。労働時間規制を、日本、オランダ、スウェーデンについて見ると。オランダは個人主義が強く、スウェーデンでは組合の意思が強く、個人主義ではあるが、社会との連帯を重視し、日本は集団主義的色彩が強いといえる。日本は労働時間規制の議論が狭く、目先のことばかりになっている。

4 労働そのものをどのように捉えるか

労働時間の概念は、産業革命後に一般化されたといわれるが、トーマス・モアの「ユートピア」(1516年)では1日6時間労働を、トマーゾ・カンパネッラの「太陽の都」(1623年)では1日4時間労働がうたわれ、ジョン・メナード・ケインズの「わが孫たちの経済的可能性」(1930年)では、1日3時間、週15時間労働がうたわれているが、これらは実現に至っていない。

労働時間は、量的だけでなく、質的にも考慮する必要があるが、質を問題にし始めると、個別事情に立ち入らなければならなくなり、果たしてそれが可能かという問題がある。

産業革命後の近代から現代における労働時間規制の流れは、①個人対組織(集団)、②集団(労働組合)対集団(使用者団体・企業)、③国家が調整役として基準を用意する(ILO条約等)となっており、④働く人や働き方が多様化すれば、一般的一律規制だけでは、個人、集団(労働組合・企業)などの要望と各種のズレが起きて来る。

これからの日本は、労働時間のあり方を考えるに当たっては、多様な意思を柔軟に反映する方向を探り、キャリアを自律的に構築する方向へと進んでいくことが求められるものと思われる。

5 講演後の追加

講演終了後、講師の諏訪先生から、時間の制約のために触れられなかったとして、次のような点が加えられた。

①他国の法制について「比較対照」の説明を詳しくして、日本の労働時間制の議論が狭く、比較も関連して議論すべきだったこと、②終業時刻を厳格化している国では自己啓発が盛んであり、法制で時間外労働に「金銭手当」以外の「時間外貯蓄口座」方式を採用する国が多くなっていること、③講演の中で触れた「つながらない権利」は、フランスに始まり、オーストラリア、フィンランドなど多くの国の法制に広がっていること、④労働負担、ストレス負荷などへの対抗策、予防策としてのEUのようなインターバル制度が重要であること、⑤AIの活用で短縮できた時間を労働者にも成果配分して「時短」や「週休3日制」にする先進例として日本でも終業時刻を30分早めた例があること。

働き方改革と「働かせ改革」の攻防(要旨)

日本労働ペンクラブ事務局長 溝上憲文氏

1 労働基準法改正をめぐる振返り

高市総理の発言以降、総理主導の労働時間規制緩和政策に転換し、議論の方向性が混乱している。労働時間の上限規制緩和を政府・経済界が求める一方、労働側は過労死ラインの維持や規制緩和反対の立場を明確にして、双方が鋭く対立し、業界が与党に陳情する状況になっている。政府は「もっと働きたい」という労働者の意向を尊重するというが、そういう労働者は少ないとの調査結果が示され、政府の規制緩和推進とのギャップが浮き彫りになった。

こうしたことから、経済界や中小企業から、裁量労働制の拡大や変形労働時間制の要件緩和、監督署指導の見直しなどを求め、監督署指導の見直しについては既に行われている。「働きたい改革」は「働かせ改革」となっており、今後の展開が不透明になっている。

2 政府の方針転換による迷走と各界の反応

高市政権が主導し「労働時間規制の緩和を厚労大臣に指示し、日本成長戦略会議・労働市場改革分科会の新設による政府主導の議論へ転換している。厚労省では、元々労働政策審議会における慎重な議論を進めていたが、政権主導により議論の場が一時的に移行。公労使三者構成の公正なプロセスがどうなるか。労働側は、現行の上限規制の維持と、規制緩和反対を明確に表明し、健康管理・生活設計の観点から、規制緩和に強く反対している。

3 政府が示した労働時間規制緩和に関する指示内容

主な規制緩和検討項目は、裁量労働制の適用拡大、導入要件の緩和、変形労働時間制の要件緩和、時間外労働の規制の見直しとされている。

いかなる規制緩和でも、健康確保措置や長時間労働防止策の確実な実施を条件としており、今後の労働基準法改正論議は、労働政策審議会の裁量労働制実態調査を踏まえ、年末を目途に労働政策審議会の報告書を建議し、2027年の通常国会に提出する流れとなるのではないか。

4 労働時間管理に関する今後の重要テーマ
  • 努力義務とされている「勤務時間インターバル制度」の義務化
  • 「つながらない権利」の導入
  • 裁量労働制の適用範囲の拡大
  • 変形労働時間制の要件緩和
会場が埋め尽くされた45周年記念講演会会場が埋め尽くされた45周年記念講演会
記念講演会で状況を報告する溝上事務局長記念講演会で状況を報告する溝上事務局長
記念講演会で穏やかに語る諏訪教授 記念講演会で穏やかに語る諏訪教授
諏訪教授の話に耳を傾ける参加者諏訪教授の話に耳を傾ける参加者
講演会で質問に耳を傾ける諏訪先生(中央)講演会で質問に耳を傾ける諏訪先生(中央)
講演会会場には会内外の参加者が集まった講演会会場には会内外の参加者が集まった

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